前回のおさらい
前回は、不動産の鑑定評価において価値の配分が行われるケースを列挙し、その概要を紹介しました。今回から数回に分けて、個々の具体的なテーマについて触れていきます。その中でも今回は、価値の配分が行われるケースの最も基本的な考え方を述べ、次回以降、どのような考え方に基づき鑑定評価を行っているか、解説していきます。前回「価値の配分」以前のコラムが主として理論的に縦割りに分類するものだとすれば、この価値の配分という考え方はこれらを横断的に捉える鑑定評価を行う評価主体の思想や理念に基づくものといえます。
不動産の鑑定評価における「価値の配分」とは、ある不動産の価値を当事者間で形式的・表面的に配分するのみではなく、実質的・本質的に利益の均衡を図る観点からも妥当な結論を導き出そうとする考え方になります。
今回から具体的なテーマに入っていきますが、限定価格の鑑定評価、中でも隣接地の併合の鑑定評価における「価値の配分」という考え方は、次回以降の価値の配分について考える上で最も基本的な考え方になります。
限定価格の鑑定評価
鑑定評価の依頼を受けた場合、求める価格のほとんどのケースは正常価格ですが、依頼目的等によっては、限定価格として求める場合があります。
不動産鑑定評価基準では、正常価格と限定価格について次のように定義されています。
正常価格とは、市場性を有する不動産について、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格をいう。
限定価格とは、市場性を有する不動産について、不動産と取得する他の不動産との併合又は不動産の一部を取得する際の分割等に基づき正常価格と同一の市場概念の下において形成されるであろう市場価値と乖離することにより、市場が相対的に限定される場合における取得部分の当該市場限定に基づく市場価値を適正に表示する価格をいう。
正常価格と限定価格ともに市場性のある不動産についての価格ですが、正常価格は、誰でも市場に参加し、いつでも、退出することが可能ですが、限定価格は、正常価格とは異なる価格で取得しても合理性が見いだされるような場合の価格といえます。
その代表的なものとして、次のような場合が挙げられます。
①隣地を併合する場合
②借地権者が底地を併合する場合
③借家権者が貸家及びその敷地を併合する場合
④区分所有建物及びその敷地間の併合を行う場合
⑤経済合理性に反して不動産の分割を行う場合
ⅰ.①~④の併合後の状態から併合前の状態に分割する場合
ⅱ.区分地上権設定において、当該区分地上権に至るまでの通路等確保のための土地の空間又は地下の部分の分割を伴う場合※下記参照
⑥細分化された画地を逐次取得し、一団の画地となる場合
※立体道路制度を活用して区分地上権を設定し、土地を道路部分と他の部分に分割する場合は、この典型例になります。なお、私は地下に高速道路が存し、当該道路の所有者が地上に利用制限付きの区分地上権を設定した場合の鑑定評価を日本で初めて行っております。
隣地の併合の鑑定評価
下図のような土地Aの所有者甲が隣接する土地Bの購入を検討しているとします。売買が成立すれば、甲は土地Bを併合し、土地Cとして利用することが可能になります。


この設例では次の前提を置きます。
【前提】
・土地A自体は不整形な土地でこちらも単独では利用しづらい。正常価格はPa(=a×Sa)。
・土地B自体は間口が狭く、単独では利用がしづらい。正常価格はPb(=b×Sb)。
・土地Cは、 併合によって間口が必要十分な広さで、形状も整形で建物等の配置等も行いやすい。正常価格はPc(=c×Sc)。また、併合によって甲及び乙共にメリットを受ける。
・単価について、a<b<c、また、総額についてPa<Pb<Pcとする。
・併合前の土地Aと土地Bの合計価格(Pa+Pb)よりも併合後の土地Cの価格Pcの方が高くなり、増分価値Δが発生。
増分価値Δ=Pc-( Pa+Pb)
第三者が土地Bを買う場合は、上記のような併合による増分価値Δが発生しませんので価格Pbの価値しかありません。土地Cに発生する増分価値Δは土地Aまたは土地Bが単独で発生するものではなく、併合によって生じるものです。
この前提に立ち、増分価値Δを土地A及び土地Bにどのように配分すればよいか、というのが今回のテーマです。
価値の配分方法
一般的には、次のような方法で配分します。

このうちどれが最も妥当といえるかは、最終的には甲、乙の置かれている状況によって変化し、一概にどれが適切といえるのかはケースバイケースです。
今回のケースでは、AとBでは、併合によって受けるメリットは両者が必ずしも同じではないはずです。
例えば、①単価比による方法の場合、a<bなので土地Bに配分される金額は土地Aに配分される金額よりも多くなります(Δa<Δb、上表参照)。
また、④買入限度額比による方法の場合、Pa<Pb<PcなのでPc- Pb<Pc -Paとなり、この方法によってもΔa<Δbとなります(上表参照)。
同様に②③いずれの方法によっても、Δa<Δbとなります。
ただし、併合によって甲、乙両者ともにメリットを受けるため、金額の多寡はあるにしても両者納得しやすい状況にあってどれを採用するか、あるいは、併用するかは評価主体の判断に委ねられるかと思います。
しかしながら、土地Bが単独で利用できる等、必要十分に適正な規模等を擁する場合には、併合しても乙にはメリットがなく、①~③の方法によって求めるのは妥当とはいえない場合が多く、土地Aへの配分額Δaはゼロとなり得ます。
また、下図のように
「土地Aは、接道部分がわずかで利用のしやすさはやや難があるものの、建物建築は可能で、併合によってもメリットは少なからずある。一方、土地Bは単独で利用できない程に規模が小さく、形状が不整形で、併合によるメリットは甲に比べて非常に大きい場合」を想定してみます。

隣地の併合の鑑定評価においては、実務上、一般的には④買入限度額比による方法によって求める、あるいは、重視する傾向があるように思いますが、今回のケースでは、④買入限度額比による方法によると、甲は価値の僅少なものに対して多大な負担を強いられる可能性があり、妥当な結論を導くことができません。このような場合には、原則論や一般論に縛られることなく、評価対象の置かれている状況によって当事者間の利益衡量上、「何が妥当か?」という観点から結論を導くことが特に重要です。
まとめ
今回は、「価値の配分」を考える上で、最も基本となる隣地の併合の鑑定評価を行う場合について説明してきました。
いずれのケースにおいても価値の配分を考える上で、当事者間の利益衡量上、「何が妥当か?」という観点から鑑定評価を行うべきことに変わりはありません。
不動産の鑑定評価は、不動産鑑定評価基準という枠組みの中にあっても、「価値の配分」についてまでは明確に規定されていない部分が多く、評価対象の置かれている状況等によって、どのように価値を配分するかは、評価主体である不動産鑑定士に委ねられている部分でもあり、適切に判断を行うのは必ずしも容易ではありません。
少し大げさな表現になりますが、「価値の配分」を行う上で最も重要なことは、不動産鑑定士が専門的な知識、技術等を有する以前に「何が妥当か?」「何が正義か?」といった哲学、思想等に通ずる部分ではないかと思います。
次回は、鑑定評価において「価値の配分」を考えるべき最も重要、かつ、典型的なケースの一つともいえる「建物及びその敷地における一体減価」について触れた後、これを基礎として「建付地の鑑定評価」について説明していきます。


