継続地代の鑑定評価について

継続地代の鑑定評価について
目次

前回のおさらい


前回、継続賃料の鑑定評価についてその概要を説明してきました。以下、繰り返しになりますが、さらっと概要を列挙してみます。

  1. 継続賃料の鑑定評価においては、①諸般の事情及び②事情変更の有無について時系列的に分析が非常に重要であること。
  2. 賃料には賃貸借契約が新規か継続かによって新規賃料と継続賃料に分けられ、また、不動産の利用形態の違いによって分類すると、家賃、地代等に分類されます。
  3. 継続賃料は、特定の当事者間にのみ当てはまる適正な賃料であること、また、継続賃料には不動産鑑定評価基準には4つの手法(①差額配分法②利回り法③スライド法④賃貸事例比較法)によって試算賃料を求め、これらの試算賃料の説得力の軽重によって継続賃料を求めることが規定されています。

当ブログでは、これまで、不動産にあまり馴染みのない方を前提として説明をしてきましたが、今回の継続地代に関しては、依頼者等にある一定の予備知識がある方々を想定しております。難しいと思われた方はコラム末の「最後に」の箇所をご覧下さい。

それでは、今回は、継続賃料の鑑定評価のうち、地代にスポットをあてて説明していきます。

地代の性格

土地は、その個別性が強い、例えば、ある場所に位置するからこそ、事業をしてみよう、あるいは、住んでみようといった動機が生まれるものです。土地を借地借家法に基づき、建物所有を目的として土地を賃借し、地代の発生が生じる場合、借地人(賃借人)は、多大な投下資本を要するのに対し、家賃の場合、建物及びその敷地は家主である賃貸人が投下資本の大半を負担し、借家人(賃借人)の負担は、借地人の負担に比べると相対的に小さいものです。

したがって、賃料は価格よりも変動が小さく、しかも遅れて変動する特性を持っていますが、地代の場合、家賃の変動に比べて更に小さく、しかも遅れて変動する特性を有するという点に留意する必要があります。

また、賃料の鑑定評価において、重要な考え方の一つとして意識すべきことは、賃貸借の目的としている元本は何か?ということです。

地代とは、土地を利用する場合において土地を利用する権利の価格をその利用期間または契約期間に応じてその利用する対価として支払われるものです。土地を利用する権利として支払われる賃料、すなわち、地代には、借地権(地上権を含む)、区分地上権、地役権等を設定する場合に発生する賃料があります。なお、区分地上権は地代としてではなく、一般に権利の設定の対価としてまとめて支払われることが多く、また、地役権は権利設定によって生ずる利用の対価としてその都度支払われることが多くみられます。

また、行政機関等によって占用許可によってある土地の全部、又は空間や地下の一部を占有することによって生ずる占有権は、占用使用料の名目で期間を3~5年程度の短期間に限定し、設定される場合が多く見られますが、占用許可によって占有物が物理的、経済的、行政的に長期間にわたって存在することが想定される場合、事実上、その占有権は半永久的な権利としてみなしうる場合もあります。

継続地代の鑑定評価の手法

以下、手法毎に時系列的な分析をどのように反映させていくかを中心に借地権設定の場合における地代特有のポイントを説明していきます。

1.差額配分法

地代の鑑定評価において、差額配分法を適用する場合のポイントは以下の通りです。

ⅰ.新規賃料の査定

①積算法②賃貸事業分析法(事業用不動産等の場合、収益分析法) ③賃貸事例比較法を適用して求めます。ここでは①②について説明していきます。

①積算法の適用

元本である基礎価格として求める際に、更地価格又は借地権価格のいずれを基本として求めるか?

また、上記採用した基礎価格(更地価格か底地価格か)に対応した利回り、すなわち、期待利回りとして求める必要があります。さらに、期待利回りの査定においては建物及びその敷地の還元利回りと土地のみの還元利回りの関係の整合性及び対象不動産にかかる契約締結の経緯等についても留意する必要があります。

②賃貸事業分析法の適用

積算法で採用した基礎価格と対応しているか?について十分に検討する必要があります。これは、収益分析法の適用においても同様です。

この点は、差額配分法における賃貸人への配分額を決定づける要素の一つであり、これには借地権及び底地の関係、借地権または底地と更地との関係、さらには、更地と建物及びその敷地との関係についての十分な理解が必要です。

ⅱ.現行賃料と新規賃料の差額分の査定

差額配分法の適用において、契約締結の経緯、賃料改定の経緯のほか、土地の賃借人又は賃貸人の近隣地域発展の寄与度等の諸般の事情等について差額の配分率の査定において留意する必要があります。例えば、賃貸借契約当初に比べ、賃借人の企業努力によって多大の投下資本を投じて近隣地域内において象徴的な建物を建築し、当該近隣地域の発展に寄与した度合いが大きい場合や土地の賃貸人または賃借人の努力によって、連続する複数の土地の集約化が実現し、近隣地域内の発展に大きく寄与したと認められる様なケースです。この場合、配分率査定の根拠について、機械的に折半によって配分率を査定するのではなく、個別具体的な事情を十分に反映する必要があります。

2.利回り法

利回り法は、元本である基礎価格に収益率を表す継続賃料利回りを乗ずる等して継続賃料を求める手法です。その元本である基礎価格は、1.差額配分法適用時の新規賃料査定において述べた積算法の適用で採用した基礎価格等と整合したものでなければなりません。

また、継続賃料利回りの査定において地代の場合、①諸般の事情及び②事情変更の有無等についての時系列的な分析、特に、直近合意時点における現行賃料の土地価格の割合のほか、賃料改定の経緯、土地価格の変動等について時系列的な分析を行う必要があります。

利回り法は、過去の賃貸借当事者間で合意した賃料が継続賃料利回りとなって表現されたものといえるため、土地価格が比較的安定した趨勢を有する場合には、その試算賃料にも一定の説得力を有すると認められる場合もあります。

しかしながら、土地の賃貸借は、賃借人が自ら建物を建築し、資本を投下しているため、その賃貸借期間は長期間に及ぶのが通常です。したがって、その賃貸借期間が長期間に及ぶ場合、土地価格の変動は、直近合意時点から価格時点までの間においても上昇あるいは下落を同時に繰り返す場合も想定され、継続賃料利回りは不安定な利回りとして査定され、説得力は相対的に劣ることが想定されます。この場合、直近合意時点から価格時点までの経過期間についてもどの程度、土地価格である元本価格がどのように変動したかを時系列的に分析することが不可欠です。

3.スライド法

スライド法は、前回で説明したとおり、求め方には2通りあります。

①直近合意時点における純賃料に変動率を乗じて得た額に価格時点における必要諸経費等を加算して求める方法②直近合意時点における現行賃料に当該現行賃料に対応する変動率を乗じて求める方法

ここでは、②の方法について説明していきます。

スライド法の適用においては、直近合意時点から価格時点までの間の変動率を如何に決定するかが問題です。

スライド法は、前回述べた通り、客観的な経済指標によって変動率を査定するため、恣意性が介入する余地が少ないといえますが、一方、諸般の事情(賃料改定の経緯、契約締結の経緯等)といった対象不動産に個別的な要因を如何に手法の適用に反映していくかが課題になります。土地のみの賃貸借にかかる地代の鑑定評価の場合、原契約締結時における実際の地代と新規地代との乖離及びその後の乖離の程度の推移、地代改定が何を根拠として行われてきたかを十分に分析し、変動率査定において考慮すべきです。例えば、賃貸借契約書に地代改定の定めがあり、これに基づき地代改定が行われてきた場合や土地価格や公租公課等のある指標に基づき地代改定してきた経緯が読み取れる場合等対象不動産の個別的な事情が試算賃料査定に反映しうる場合には、試算賃料の説得力は相対的に高いと判断され、逆もまた然りです。

最後に

継続賃料、特に、継続地代の鑑定評価は不動産鑑定士の間でも見解の相違のある場合も少なくはなく、知識、経験、能力等が要求される難解なジャンルの一つです。

今回、紹介したポイントは継続地代の鑑定評価の内のその一端に過ぎません。訴訟案件になれば、これよりも更により深く、難解な論点について掘り下げ、争うことになります。その時こそ不動産の専門家たる不動産鑑定士としての存在意義の一つであり、鑑定士冥利に尽きる瞬間です。

不動産の鑑定評価は、理論的には一つの価格または賃料へと収斂していくものとすることを建前としていると考えられますが、現実には評価主体である不動産鑑定士によって判断の違いにより妥当とみられる適正な価格水準または賃料水準は、ある程度幅が生じうるものです。業務上、数多くの鑑定評価書を目にすることがありますが、不動産の専門家として不動産の鑑定評価を行う場合には、この妥当な範囲を超え、仮に超えていなくとも、恣意的に鑑定評価を行うこと、あるいは、過失ではあっても能力、経験、知識等の不足によって鑑定評価を行うことのないよう、不動産鑑定士としての責務を果たすべきであると自戒しています。

なぜなら、不動産鑑定士としての判断は、対象不動産及びその鑑定評価書の利用者のみに留まらず、鑑定評価書によって示した判断が他の第三者への意思決定へ影響を与えうる可能性、あるいは、危険性を孕んでいるからです。

次回は、不動産の鑑定評価を行う上で、度々登場する考え方の一つ、価値の配分について触れてみたいと思います。

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