継続賃料の鑑定評価について

継続賃料の鑑定評価について
目次

はじめに

私がこのブログ(コラム)を執筆した頃より、継続地代について書きたいと思っておりました。継続賃料の鑑定評価、特に地代の鑑定評価は、不動産鑑定士にとって知識、経験、能力に加え、判断力、分析力等が試される分野の一つであり、特に、訴訟案件の継続地代の鑑定評価にいたっては、相手方の不動産鑑定士との専門家同士の真剣勝負であり、前記に加え、戦略や戦術の巧拙によってその結果が大きく左右されるため、最も難易度の高い鑑定評価の一つといえます。

なお、今回の内容はこれまでの記事の中でもより専門的な内容を多く含んでいるため、依頼者等弊社ブログ記事を読んでいる方々も一定程度の予備知識を前提として説明させて頂きますが、継続賃料の性格及びまとめの部分を読んで頂くだけでも良いかと思います。

当ブログでは、継続賃料の概要について述べた上で、継続地代の鑑定評価については次回で説明していきます。

継続賃料の性格

賃料とは、不動産を利用する場合において、私たちが不動産の価格とよんでいるものをその利用する期間全体あるいは賃貸借における契約期間に配分し、これを利用の対価として表したものということができます。賃料は、対象不動産の利用の状態等により、家賃(建物及びその敷地)と地代(土地のみ)等に分けることができます。

また、賃貸借契約が新規か、継続かによって新規賃料と継続賃料とに分けられます。

継続賃料は、不動産鑑定評価基準によれば次のように定義されています。

継続賃料とは、不動産の賃貸借等の継続に係る特定の当事者間において成立するであろう経済価値を適正に表示する賃料をいう。

新規賃料が、賃貸借契約を新規に締結する際の賃料であるため、賃貸市場において参入しようとする市場参加者の賃料の支払能力の有無を除けば、誰もが納得する水準であるといえます。しかしながら、継続賃料は、既に賃貸借契約が締結された貸主と借主という特定の契約当事者間でのみあてはまる賃料であるという点において、根本的に異なります。

継続賃料の鑑定評価は、賃貸人又は賃借人あるいはその他の利害関係者等からの依頼による場合であっても、当事者間の主張の食い違いによって訴訟に発展するか否かを判断することが困難なケースも少なくありません。したがって、依頼を受けた当初、訴訟に発展しないことを前提とした場合であっても、将来的には訴訟になる可能性をも視野に入れて鑑定評価を行うか、あるいは、簡易な方法で不動産鑑定評価基準によらない価格等調査を行い、賃料交渉や契約締結の判断基準として利用して頂く等、柔軟に対応する必要があります。

継続賃料の鑑定評価

継続賃料の鑑定評価においては、賃貸人及び賃借人の特定の当事者間でのみ成立する賃料のため、その①当事者間における契約の内容や契約締結に至る経緯等(諸般の事情)に加え、当初の賃貸借契約締結時から賃料改定時、そして、鑑定評価額を決定する価格時点において②直近合意時点から価格時点までの間に生じた経済情勢の変化や契約内容の変更等(事情変更という)の有無時系列的に把握分析することが重要です。直近合意時点とは、原契約(=契約が締結された最も最初の契約)開始以降、賃料改定が行われ、現行賃料を定めた時点をいいます。

また、継続賃料は新規賃料のように不特定多数の参入する市場というものは原則として成立せず、継続賃料の鑑定評価の手法の適用においてこれらの①諸般の事情及び②事情変更の有無を反映させる必要があります。

以下、若干専門的な内容を含みますが、これまで述べた新規賃料の鑑定評価、借地権の鑑定評価、底地の鑑定評価、更地の鑑定評価等の全てが密接に関連しており、これらの考え方を適切に継続賃料の鑑定評価において織り込んでいく必要があります。

継続賃料の鑑定評価は、その構造が新規賃料と比べて多少複雑なため、2回に分けて説明していきます。今回は、継続賃料の鑑定評価の概要について、次回は継続地代に焦点を絞って説明していきます。

なお、継続賃料の鑑定評価については、不動産鑑定士によって見解の相違が見られることも多く、どの立場にいるかによって結論も異なってくる場合も多いため、本ブログでは、なるべく継続賃料における骨格を明らかにしつつ、それぞれの見解の紹介に留めていくようにしていきたいと思います。

継続賃料の鑑定評価の手法

不動産鑑定評価基準によれば、「継続中の(中略)賃貸借等の契約に基づく実際支払賃料(=継続賃料のこと)を改定する場合の鑑定評価額は、差額配分法による賃料、利回り法による賃料、スライド法による賃料及び(賃貸事例比較法による)比準賃料を関連づけて決定する」とされています。なお、この4つの各手法毎によって求められる賃料を試算賃料といい、継続賃料は4つの試算賃料のうち、どれが説得力を有するかを判断し、求められることになります。

以下、手法毎について説明していきます。

①差額配分法

ⅰ.意義

差額配分法は、価格時点において新規に賃貸借契約を締結した場合の適切な賃料(=新規賃料)と直近合意時点における現行賃料との差額分のうち、賃貸人に帰属すべき部分に配分率を乗じ、直近合意時点における現行賃料に加減して継続賃料を試算する手法です。配分率を求めるには前述の原契約開始時から直近合意時点及び価格時点までの諸般の事情及び直近合意時点から価格時点までの間に生じた事情変更等を総合的に勘案し求める必要があります。

ⅱ.求め方

例えば、次のような場合の試算賃料を求めてみます。

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差額配分法では、まず価格時点における新規賃料を求める必要がありますが、新規賃料の求め方については、弊社ブログ2023年8月28日及び同年9月26日付賃料の決まるメカニズムについてⅠ及びⅡで書いたとおり、積算法、賃貸事例比較法及び収益分析法(地代の場合、賃貸事業分析法又は収益分析法)によって求めることになります。

ⅲ.留意点

差額配分法は、賃貸借が継続される場合の賃料は、原則として新規賃料a1 (=新規の賃貸借契約において適正な賃料) と現行賃料a2との間で決まるであろうという賃貸借当事者間の暗黙の了解によって成り立つ手法です。

ただし、その差額分Δaをどのように配分率tを決定するのかについては当事者間の利益の均衡に留意する必要があります。また、差額配分法は、その手法の性格に鑑み、諸般の事情及び事情変更の有無についての時系列的な分析、特に賃料改定の経緯、経済情勢の変動等を配分率等の査定において適切に反映する必要があります。

なお、賃料差額がマイナスの場合、すなわち、現行賃料が新規賃料を上回っている場合、単純に差額を1/2、あるいは、1/3とすべきではなく、この場合、新規賃料を上限とすべきであるとする意見もあります。

②利回り法

ⅰ.意義

利回り法は、価格時点における基礎価格に継続賃料利回りを乗じて得た額に必要諸経費等を加算して試算賃料を求める手法です。

基礎価格とは、賃料を求めるための元本に相当するものです。

また、継続賃料利回りは、元本である基礎価格に対してどれほどの利益が得られるかを示す率を表します。

ⅱ.求め方

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ⅲ.留意点

利回り法は、基本的には対象不動産の調達に要する費用である基礎価格に対して、諸般の事情及び事情変更の有無等を継続賃料利回りに反映させ、継続にかかる賃料へアプローチするものです。

基礎価格は、賃貸借の対象である不動産を元本としていますが、何が元本に相当するかについては議論の分かれるところです。例えば、対象不動産が借地権付建物の場合、基礎価格を求める際に基本となるのは、自用の建物及びその敷地なのか、あるいは、借地権付建物なのかという二つの見解があります。ここで、基礎価格を求めるために自用の建物及びその敷地を採用した場合、採用する継続賃料利回りの求め方や差額配分法の新規賃料を求めるための積算法の適用等との整合性についても十分に考慮する必要があります。

③スライド法

ⅰ.意義

スライド法は、直近合意時点(=現行賃料を定めた時点)における純賃料に変動率を乗じて得た額に価格時点における必要諸経費等を加算して試算賃料を求める手法をいいます。なお、直近合意時点における現行賃料に当該現行賃料に対応する変動率を乗じて試算賃料を求めることも可能です。

ⅱ.求め方

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ⅲ.留意点

スライド法は、既に現実に合意された現行賃料またはこれに基づき半ば機械的に求められる純賃料に変動率を乗じて求めるため、変動率を如何に求めるかがポイントになります。変動率は、客観的な経済指標、例えば、土地価格や建築費の変動、公租公課の変動、各種賃料指数の変動ほか、消費者物価指数やGDP統計等の推移等を分析し、その指数の説得力に応じて査定されます。

したがって、客観的な経済指標によって変動率を査定するため、恣意性が介入する余地が少なく、この点において経済情勢の変動等の事情変更の状態を反映し易いといえますが、その一方、採用する指数によって変動率も変化し、前記の諸般の事情(賃料改定の経緯、契約締結の経緯等)を如何に手法の適用に反映していくかが課題になります。

④賃貸事例比較法

賃貸事例比較法は、対象不動産と類似の賃貸借の事例とを比較して賃料を求めようとする手法です。しかしながら、実務上、対象不動産と類似の他の不動産があったとしても賃貸借契約の内容まで把握することは困難であって、仮に賃貸借契約の内容が判明したとしても賃料改定の経緯、契約締結の経緯等賃貸借契約の継続にかかる諸般の事情や事情変更の状況まで対象不動産と比較することは極めて困難であって、割愛することが多いのが実情です。

不動産の賃貸借の場合には、賃貸事例の契約内容の詳細を把握することが困難な場合が多く、鑑定評価の世界では、意外に適用されないケースや適用したとしてもあまり重視されない場合も少なくありません。例えば、支払賃料が判明していたとしても敷金や礼金等の額やその扱い、契約期間や期間内の解約や契約期間終了後の更新の定め、また、賃料改定の定め等の内容如何によって賃貸事例にかかる実質的な賃料が大きく変わり、対象不動産と比較が困難になるためです。

まとめ

今回は、継続賃料の鑑定評価についての概要をお話ししました。

冒頭で述べたとおり、継続賃料の鑑定評価は、不動産鑑定士の能力、経験等の如何によって左右されるジャンルの一つです。特に訴訟案件については、持論を適切に説明できるだけではなく、相手方の主張に対する理解や反論を展開しうるだけの十分な知識、経験、能力及び判断力等に加え、戦略眼も重要な要素です。

次回は、今回の継続「賃料」の鑑定評価を土台として継続「地代」の鑑定評価について説明していきます。

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