借地権の鑑定評価について

借地権の鑑定評価について
目次

前回は、新規地代 (=土地の新規の賃貸借における賃料)の鑑定評価についてその概要を紹介しました。

今回のテーマは、これに関連したテーマである、借地権について述べてゆきます。
借地権の鑑定評価は、完全な所有権の鑑定評価に比べ、構造がやや複雑で、市場もより緻密に把握分析する必要があること、また、専門家の間でも見解の相違がみられる点がある等、奥が深く難解です。

以下において、借地権の評価手法の概略を紹介していきます。

借地権の性格

鑑定評価でいうところの借地権は、民法上の借地権とは若干異なり、不動産鑑定評価基準では以下のように定義されています。

不動産鑑定評価基準:
借地権とは、借地借家法(廃止前の借地法を含む。)に基づく借地権(建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権)をいう。

一方、民法上の借地権は、上記の「建物の所有を目的とする」という制約はなく、地代を支払うことによって土地を利用する権利を指します。

ここでなぜ鑑定評価で「建物の所有を目的とする」を前提とするのかといえば、前提の有無によって経済価値が根本的に異なるからです。

例えば、同一の土地であっても「建物の所有を目的とする」高層の店舗付事務所ビル利用のための借地権に対する満足度と「建物の所有を目的としない」月極駐車場における土地の賃借権の利用によって得られる満足度が全く異なるために、例えば、借地権に対して支払ってもよいと考える対価も異なると考えられるからです。

すなわち、借地権によって土地を利用する権利が付与されたとしても、どのように利用するかによって借地権に対してどれほどの価値があるのか、差異が生じるのは当然といえます。これを法的側面からみてみると、青空駐車場のように単に建物所有を目的としない借地権(賃借権)の場合、借地借家法による保護を受けない(賃貸人に正当事由がなくとも解約可能等)ため、当該借地権に経済価値は原則として発生しません。

したがって、鑑定評価上で借地権として鑑定評価を行なう必要性が生じる、より厳密に言えば、経済価値が発生する可能性があるのは、上記の法的根拠のある「建物の所有を目的とする」場合における借地権が対象となり得ます。なお、建物所有を目的としない土地を借りる権利で地代が発生しない場合は、土地の使用借権とよび、地代の発生する借地権等と区別されます。

借地権の経済価値

これをまとめると鑑定評価における借地権の経済的価値とは、以下の2点に集約することができます。

①法的側面からみた経済価値

他者に妨害されることなく、土地を独占的に使用等が可能な点に対応する経済価値。

②経済的側面からみた経済価値

借得部分 (=新規に賃貸借した場合の適正な賃料と現行賃料との間の差額分)に基づき形成される経済的利益に着目した経済価値。

借地権価格を求める手法

上記の借地権の経済価値を特徴づける2点から考えると、②経済的側面からみた経済価値について、借得部分がない場合、借地権に経済価値はなく、①法的側面からみた経済価値のみとなります。

この場合、土地を利用する権利が法的に認められるというだけにすぎず、借地権があるからといって必ずしも、借地権に価格が認められる訳ではないことを意味しています。

例えば、周辺に建物がほとんどなく、農地がみられる様な地域に借地権に基づき戸建住宅があったとしても、そもそも更地価格水準が低い場合に借地権に価値が認められるとは考えにくいということです。

ただし、例外的に、賃借人に借得部分がなくとも、土地を利用すること自体に価値が認められる様なケース、例えば、借地権付建物全体で事業用不動産として利用されている場合には、全体として収益がプラスであれば、借地権に経済価値が認められるケースや借地権の需要者がそもそも借得部分の存否に着目していないような自用の戸建住宅にかかる借地権の場合も借地権に経済価値が認められるケースもあります。

この例外的なケースの詳細については、またの機会に説明させていただくとして、ここでは借地権価格を求める手法の概要を紹介させていただきます。

以上より、借地権の価格を求める場合、その地域の実情、対象不動産の個別的な要因等によって求める手法にも違いがあることになりますが、ここでは借地権の取引慣行が成熟している場合の以下の4つの手法について取り上げます。

  1. 取引事例比較法
  2. 土地残余法(=借地権残余法)
  3. 賃料差額還元法
  4. 借地権割合法

①取引事例比較法

取引事例比較法は、借地権又は借地権付建物の取引事例と対象不動産を比較検討して対象不動産の市場性の観点から借地権価格を求める手法で、適切な事例が入手できた場合には、実証的でわかりやすいといえますが、取引事例にかかる契約内容を把握することが困難な場合も少なくはなく、適用を断念することもしばしばある手法です。

②土地残余法(=借地権残余法)

借地権残余法は、対象不動産の収益性に着目し、土地の上に最有効使用の建物の建築を想定して借地権付建物全体から得られる純収益から建物に配分すべき純収益を控除して借地権に配分されるべき純収益を求め、これを借地権の還元利回りで除して借地権価格を求める手法です。

この手法は、貸家としての賃貸市場が成熟している場合で高度利用が行なわれているような賃貸用不動産にかかる借地権価格を求める場合に有効な手法ですが、分譲住宅団地内の戸建住宅のように、そもそも借地権に基づき賃貸用不動産の建築想定がふさわしくない場合には、適用できません。

なお、郊外型店舗等の自用の事業用不動産であっても、これにかかる事業収支の分析等が可能な場合には、事業収支から土地(=借地権)に配分されるべき純収益を求め、借地権価格を求めることが可能な場合もあります。

③賃料差額還元法

賃料差額還元法は、賃貸借期間中に発生する賃借人の借得部分(=新規の賃貸借における適正な賃料と現行賃料の差額)の現在価値の総和によって借地権価格を求めようとする手法です。

弊社ブログ「不動産の収益性からの検討を怠った場合の失敗例」のケース1で紹介させていただいた、不動産を収益性の観点からアプローチすべき場合において威力を発揮する手法です。

ただし、借地権価格が必ずしも収益性に着目して市場参加者が意思決定を図るとは限らない場合、例えば、貸家としての賃貸市場が成熟していない地域や借得部分自体がマイナスであったとしても、それ自体に価値が認められる様な場合には、①の取引事例比較法、もしくは、以下に述べる④の割合法によって求めるべきケースも考えられます。

④割合法

割合法は、更地価格に借地権割合を乗じて借地権価格を求める手法です。この手法は、財産評価基準書、いわゆる、相続税路線価図に記載されている借地権割合等を参考に対象不動産の個別性等も勘案の上、対象不動産の借地権割合を求める手法で、簡明でわかりやすく、一般にも広く用いられている手法です。

しかしながら、上記②③で例示した様な、対象不動産の個別性をほとんど全くといっていいほど考慮することが困難な点に注意が必要です。

まとめ

以上、借地権価格の求め方の概要を紹介してきましたが、一般の人々にとって④割合法は簡便、かつ、わかりやすい手法ですが、対象不動産の個々の事情を適切に反映しづらいために、①~④の4つの手法を原則として、適用することが必要です。

言い換えるならば、①~③の手法を用いることなく、④の割合法のみで借地権価格を求めることが市場の実態に近いと考えられるようなケースではわざわざ鑑定評価による必要もなく、概算で査定した方がよいのかもしれません。

しかしながら、対象不動産の個々の事情等を的確に反映しなければならないような場合には、不動産の専門家の判断、意見によることも必要ではないかと思います。

次回は、具体的な設例を挙げながら、借地権価格を求める際の留意点等を紹介していきます。

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