不動産の収益性からの検討

不動産の収益性からの検討
目次

今回は、これまでの「賃料の決まるメカニズムについて」及び「不動産鑑定士の仕事とは?」で述べたテーマに関連した話題「不動産の収益性からの検討」について紹介してゆきたいと思います。

不動産の価格の決まるメカニズムについて

これまで不動産の賃料の決まるメカニズムについて3つの視点があると述べてきましたが、不動産の価格についてはどのように決まるのでしょうか?

一般的には、不動産の相場というものがあってその相場観の中で価格が決まるということは、まず思いつくところかもしれません。ところが、鑑定評価の世界では「賃料の決まるメカニズムについて」で紹介したように不動産の価格も同様に相場観(=価格水準)のみで決まるわけではありません。

不動産の価格にかかる市場には 3つの市場、すなわち、①調達市場②取引市場③投資市場があります。この3つのそれぞれの市場における市場参加者の行動パターンに着目して不動産の価格は基本的には、①不動産を造成したり、建築したりする等して調達、取得するのにどれくらい費用がかかるのか?(=費用性)、②不動産を売買したらどれくらいで取引されるのか?(=市場性)、③不動産を利用することによってどれくらい儲かるのか?(=収益性)の3つの視点から求めることになります。

不動産の鑑定評価においては上記3つの視点に着目して

①費用性の視点から求める原価法
②市場性の視点から求める取引事例比較法
③収益性の視点から求める収益還元法

等の手法が挙げられます。

不動産の価格を求める際に、どの手法を重視して求めるかは、不動産の存する地域や市場、不動産の用途や権利関係がどのような形態になっているのか等によって異なります。

対象不動産が建物及びその敷地によって構成されている場合で鑑定評価を行う場合、例えば、自用の戸建住宅、工場のほか、賃貸に向かないような店舗の場合、基本的には、①の費用性を重視して不動産の価格を求めることになります。この場合、大雑把に言うと、既成の宅地ならば更地価格に建物の新築時の価格を加算して、これに建物の減価分等を考慮して建物及びその敷地の価格を求めます。

また、ファミリータイプの分譲マンションの場合、一部の例外を除き、原則的には、②の市場性を重視して不動産の価格を求めることになります。この場合、分譲マンションを買おうとする需要者は、いくらくらいで取引されているのか?を基準として購入の適否を決めると考えられるからです。

一方、対象不動産が、賃貸借に供されているような場合で、その収益性に着目して取引が行われているような賃貸用の共同住宅、事務所ビル等のほか、事業用不動産(弊社HPの評価実績に記載されている様な不動産=不動産等の利用によって収益を上げ、その収支の分析の可能な不動産)は、原則として、③の収益性を重視して不動産の価格を求めることになります。

今回は、この3つの視点の内、収益性の視点にスポットを当てて考えてみたいと思います。

不動産の収益性からの検討

収益還元法とは、簡単に言うと不動産を貸したらどれくらい儲かるのかという視点に着目して不動産の価格を求める手法です。

より厳密に定義すると、

収益還元法は、不動産の純収益等の現在価値の総和によって求める手法である。・・・・*

といえます。

一昔前、収益還元法を適用する場面としては、賃貸用の共同住宅、事務所ビル、店舗ビル等や自用の不動産を賃貸することを想定して収益価格を求める等、適用する場面も限定的でしたが、近年の不動産の証券化市場の拡大に伴い、投資対象も拡がりをみせ、収益還元法を適用して不動産の価格を求める場面が増える等その重要性は一段と高まっています。

また、収益還元法の根底にある考え方として、

土地(=不動産)を利用することによって得られた総収益は、土地(=不動産)、資本、労働、経営に配分される。このうち、土地(=不動産)に配分される収益は、総収益から資本、労働、経営に正しく配分された後の残余の収益になる(収益配分の原則)。・・・・**

という考え方があります。これは、不動産を利用することによって得られた利益(営業利益に近いイメージです)は、資本(利子等)、労働(人件費等)、経営(経営者の利益等)に分配した後の利益が不動産に配分されるという意味です。

収益配分の原則は、①事業用不動産の価格の鑑定評価や②更地価格を収益性の観点から求める場合の鑑定評価のほか、③既に「賃料の決まるメカニズムについてⅠ.Ⅱ」で紹介させて頂いた収益分析法や賃貸事業分析法によって賃料を求める場合の鑑定評価等で根幹をなす重要な考え方です。

収益性が重視されるケース

【ケース1】賃貸用の共同住宅、事務所ビル等の賃貸用不動産

建物及びその敷地が賃貸借されると、買い手は物件を買ってもすぐには自ら利用できないため購入後も継続して賃貸借に供することが基本的な利用方法になります。そうすると、土地の取引相場がいくらだとか、建物の新築時のグレードや築後何年たっているか等、①の市場性や②の費用性等からのアプローチよりも、不動産からどれくらい利益が上がるかという収益性からのアプローチが基本的には重視されることになります。

なお、自用の不動産でも、賃貸用に稼働が十分可能であれば、収益性からのアプローチも説得力を有することになります。

【ケース2】事業用不動産

これまで、さらっと事業用不動産について触れましたが、鑑定評価の世界でいう事業用不動産とは、賃貸以外の事業の経営動向に強く影響を受ける不動産をいい、弊社HPの評価実績に掲載されているような不動産が挙げられ、原則として賃貸用の店舗、事務所、住宅等は含まれません。事業用不動産は、不動産を利用することによってどれくらい儲かるのか、その収益性の観点から需要者は意思決定すると考えられるので、このような場合には、基本的には③の収益性に着目して価格を求めるべき不動産といえます。

事業用不動産の評価において損益計算書等により収支分析を行うのは基本的には、自用の不動産になります。なぜなら、貸家の場合は、基本的には現行の賃貸借契約によって建物利用が制約され、契約内容に基づき収支分析を行うためです。ただし、貸家であっても現行契約の賃料の妥当性や継続性の有無等を検討するため、損益計算書等に基づく収支分析により検証を行う必要があります。

鑑定評価の有用性

以上のように、建物及びその敷地の鑑定評価においては、色々なアプローチの方法があり、ケースごとに重視されるべき視点も異なります。その中で、①費用性②市場性を重視して価格を求めるようなケースでは、法令上必要な場合や証拠書面として必要な場合等を除いては、特段、鑑定評価が必要となる場面は少ないのかもしれません。

しかしながら、昨今の不動産の収益性を重視する局面が増えている現状においては、不動産の収益性からのアプローチを抜きにして鑑定評価を行うことは困難な場面も多くなっています。一般の人々にとっては難解であっても収益性からのアプローチに精通した不動産の専門家であれば問題解決につながったとか、リスクを回避できた等、そうした役割こそが不動産鑑定士には求められるのではないかと思います。

次回は、今回のテーマに関連して「収益性からのアプローチを怠った場合の失敗例」について、紹介してみたいと思います。

最新記事