不動産鑑定士の仕事とは?

不動産鑑定士の仕事とは?
目次

 このブログは、不動産に問題点やお悩み等を抱えていらっしゃる方々に参考になるような内容を紹介してゆくことを趣旨としております。今回はその趣旨からは外れますが、不動産鑑定士はどのように仕事をしているのか、その内容について紹介してゆきたいと思います。

不動産鑑定士の仕事について

 不動産鑑定士は、不動産の鑑定評価に関する法律に基づいて不動産の経済的な価値(価格や賃料)を求める仕事を行い、その成果品は、不動産鑑定評価基準等(不動産鑑定士が不動産の鑑定評価を行うに当たって国土交通省が定めた基準等)にどれだけ則っているか否かで、不動産鑑定評価書や不動産調査報告書等と名称が変わります。

なお、不動産鑑定評価書は、不動産鑑定評価基準等に即したものでなければならず、また、不動産鑑定士ではないものが不動産の鑑定評価を行うことは法律で禁止されており、また、「鑑定」や「評価」という単語を用いることも法律で認められていません。さらには、この不動産の経済価値を求めることにより報酬を得ることは不動産鑑定士のみに認められた独占業務になります。

 一般の人々が一番多く目に触れる不動産鑑定士の仕事としては、国交省の地価公示、都道府県の地価調査、国税庁の相続税路線価にかかる評価、市区町村の固定資産税にかかる評価等の公的な評価等ではないかと思います。これらは個人や企業等が社会において生活、活動等を行う上で欠くことのできない社会基盤という側面を有しています。

 一方、上記の公的評価ではありませんが、不動産鑑定士による証拠書面として必要な方々や法律上、鑑定評価書があった方が有利に交渉や物事を進めやすい等の理由から鑑定評価を依頼される方々も官民問わずいらっしゃいます。

不動産鑑定士の鑑定評価~不動産鑑定士試験科目に見る

 では、どのように鑑定評価を行っているのかについて、今回は、評価書作成の作業を今年度の不動産鑑定士論文式試験の合格発表が行われたことに因んでご紹介したいと思います。

 不動産鑑定士論文式試験は教養科目三科目(民法、会計学、経済学)及び専門科目 (鑑定評価【理論・演習】)で行われていますが、ここでは教養科目について触れていきます。

1.民法の発想法

 鑑定評価を行う上で、民法の考え方はとても参考になると実感することは多々ありますが、その最も端的に表れるのが訴訟に際しての鑑定評価になります。

 訴訟以外の通常の鑑定評価では、自らの評価書の正当性を述べ、依頼者やその関係者等から質問や意見等をいただく場合においても自らの評価書について説明を加えてゆきます。

 一方、訴訟案件の場合、相手方の弁護士及びその後ろに控えているはずの鑑定士と自らの理論の正当性を証明し、加えて相手方からの反論にも備えなければなりません。訴訟案件の評価においては、自らの強み(正当性)だけではなく、自らの弱みや相手方の強み、弱みの全てについて検討し、戦略を練らなければならないのです。

 鑑定評価の世界は数学や物理学の様に基本的には答えが一つに求まるわけではなく、複雑な経済社会を単純化し、さらに鑑定士の判断に左右されるところがあって、その評価主体によってその結論にも幅が出てくる可能性が高いものです。今では観られなくなりましたが、某行列のできる法律番組では複数の弁護士がお互いに自分の法律論を展開して相争う場面がありました。鑑定評価も同様に、一つの不動産を評価しても複数の考え方が成り立つ場合も少なくありません。また、同じ結論であったとしても、どのように論理を組み立てていくかは、法律学ならではの発想法ではないかと思います。訴訟案件の鑑定評価においては、こうした民法をはじめとした法律学における一つの事案に対する複数の発想法、考え方に学び、これを鑑定評価に応用し、活用することが不可欠です。

2.会計学の知識

 不動産鑑定士は、あくまで不動産の専門家であって会計学の専門家ではありませんが、会計学の知識がなくては非常に苦労すると思われるのが、前回述べた事業用不動産等の評価です。

 ここでいう事業用不動産とは、平たくいえば、不動産を利用することによって利益を生み出し、この利益から不動産にいくらくらい家賃として支払いが可能であるか等の収支分析が必要な不動産、例えば、弊社HPの評価実績の頁に記載されている様な不動産とします。

 事業用不動産の評価においては、不動産を利用して収益を上げている場合、これを費用計上した上で、残った利益(営業利益に近いイメージです)を資本、労働、経営及び不動産のそれぞれの寄与する度合いに応じて分配しなければなりません。この場合、事業用不動産の評価においては、財務諸表(特に損益計算書)を読み解く最低限の力が絶対不可欠です。

 また、会計処理上の観点から、不動産の鑑定評価が要請されるような場面において、依頼者の方々の鑑定評価が必要となったご事情や背景等を的確に把握するには、ある一定の会計学の知識が必要不可欠です。

3.経済学的素養

 鑑定評価において経済学の考え方が非常に有益だと感じることは、意外に多くあります。直近では、アベノミクス、go toトラベル等の補助金政策、児童福祉政策、春闘における賃上げ交渉等、これら全てが、マクロ経済にどのように影響し、将来的にどのように変化していくか、また、ミクロ経済学の観点から、どのような意味を持つのか、より深く理解できる様になることです。

 例えば、前回、「新規に賃貸借を締結する際の賃料はこの賃貸人の元本の回収すべき賃料と賃借人の賃料負担力の内、不動産に対して配分されるべき適正な賃料の間で決まる」と述べましたが、これを経済学的に図式化すると次のように表されます(少々、難しくなりますので以下グラフの箇所の説明は読み飛ばして頂いてもかまいません)。

 このグラフは、二つの曲線(直線)の交点で両者の満足度の総和が最大になることを表しています。不動産の鑑定評価を概念的に捉えるならば、この塗色された三角形の範囲内に入ることを目指して結論を出すということになるのかもしれません。もちろん、現実の市場では賃貸人、賃借人の双方が自らの予算の限界を表示しているわけではなく、お互いの懐事情を探り合いながら両者の曲線(直線)は交わっていないところからスタートすると考えられます。

 また、交渉しても図1の緑色の小さい三角形ができない位置に二つの曲線(直線)があって、これが固定して動かないときは、そもそも不動産投資を行うべきではないことになります(図2参照)。

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まとめ

 以上のように、不動産鑑定士の仕事は、単に不動産の鑑定評価に関する理論や行政上の規制に関する知識等のみならず、前記のような民法の考え方、会計学の知識、経済学的素養等の一般的教養を備え、必要に応じて不動産を様々な角度から検討する必要があります。一般の人々にとって一見、複雑で難解な不動産であっても不動産の専門家である不動産鑑定士に相談すれば最終的な問題解決につながり、依頼者や相談者の方々からの付託に応えられる、そうした姿を不動産鑑定士は目指してゆくべきではないかと考えています。

 最後に、このページの趣旨からは外れますが、ご覧になっている受験生の方々に一言だけ申し伝えたいと思います。不動産鑑定士になる上で、鑑定評価の理論等の専門科目の他、受験生時代にしかできない民法、会計学、経済学の考え方等を身につけられると、いつかまたそれが自らの智慧となり役に立つ日が来るのではないかと思います。枝葉の論点にとらわれることなく、本質とは何かを常に追求する姿勢を忘れず頑張ってください。応援しております。

 次回は、「不動産の収益性からの検討」について取り上げたいと思います。

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