市場分析について

市場分析
目次

これまで弊社のブログ記事では、鑑定評価の手法に重きを置いて述べてきました。

今回はこれまでの鑑定評価の手法についての内容から趣向を変え、市場分析について述べていこうと思います。

鑑定評価における市場分析

不動産の鑑定評価のご依頼を受ける際に、すぐ近くで○○円で取引されたとか、近くの地価公示(国交省が毎年行う、地域の代表的なポイントの価格)がいくらだったから、所有地の価格もそれくらいの価格になるかという質問を受けることがあります。

しかしながら、同じような地域内の土地であっても必ずしも価格も同じとは限らないのが不動産の適正な価格を求める難しさの一つといえるかもしれません。

今回のテーマは、そのような不動産の価格にどうして差異が生じるのか、不動産に関する市場分析に関して取り上げていきます。

市場分析には、定性的な分析と定量的な分析に分けられますが、ここでは定性的な分析について述べてゆきます。

不動産に関する市場といっても、市場参加者の違いにより、取引市場、調達市場、投資市場のような価格に関する市場や賃貸市場のように賃料にかかる市場等があります。今回は、不動産市場において最もポピュラーな取引市場について説明して参ります。

不動産の鑑定評価は、不動産の置かれている市場を分析し、その市場が不動産の価格にどのように影響を与えているかを考察し、不動産の適正な経済価値を判定するものです。

したがって、鑑定評価における市場分析は非常に重要なプロセスといえます。

市場分析においては、次の点に特に留意して行う必要があります。

 ①典型的な需要者はだれか?

 ②典型的な需要者の重視する視点はなにか?

 ③市場の需給動向はどうか?

また、市場分析の結果は、近隣地域の標準的使用の判定のほか、鑑定評価の手法等各プロセスに反映させる必要があります。

以下では、設例によって市場分析を具体的に説明していきます。 

【設例1】同一路線上にある二つの商業地のケース

土地Aは、幹線道路沿いに存する駅前商業地域で2~5階建の賃貸用の店舗付事務所ビルが建ち並ぶが、周辺では近年テナントの退去が続いており、空室が多い商業地域に存する、面積200㎡程度の更地。

土地Bは、土地Aから100mほど離れた、同じく幹線道路沿いに存する2,000㎡の更地で、地域としては、駅前商業地域と路線商業地域の色彩が混在した地域である。

土地A

土地Aは、周辺で空室が目立ち、また、規模も小さいことから、典型的な需要者としては地元の店舗経営者等であり、当該需要者の購買力は必ずしも大きいとは限らない。

土地B

土地Bは、規模が比較的大きく、典型的な需要者としては郊外型店舗(家電量販店、ファミリーレストラン等)の事業者等が考えられる。鉄道よりも車での移動が主である地方都市のような場合、一般に、郊外型店舗事業者の方が、地元店舗経営者に比べ、資金力があり、高い水準での取引もみられる

【ポイント】

この設例でのポイントは、典型的な需要者が誰なのか、ということです。戸建住宅地域では、面積が大きくなると総額がかさむため、個人の参入が少なくなりがちで、単価も低くなる傾向があります。しかし、この設例では、資金力のある大手の郊外型店舗事業者が参入してくると単価が高くなる傾向にあります。この場合、都市規模や当該都市における鉄道や自動車利用の程度等も重要な視点です。

【設例2】同一市内にある二つの大規模な工業地のケース

土地A

土地Aは、高速道路のインターチェンジ(IC)にほど近い工業団地内に位置し、ICに至るまでのアクセス道路の幅員も広く、大型車両の通行に支障はない面積50,000㎡の土地。

土地B

土地Bは、市街地に隣接し、周辺は郊外型店舗等も建ち並ぶ商業地域を形成しているが、高速道路から約5kmに位置し、土地B自体に至る道路幅員が約6mと狭く、大型車両の通行にはやや難点のある面積50,000㎡の土地。また、行政的規制等から判断し、工業地が最も合理的な利用方法(=最有効使用)と判定される土地。

【ポイント】

この設例でのポイントは、典型的な需要者が重視する視点は何か?ということです。土地A及びB共に更地としての最有効使用が工業地と判定された場合、周辺の土地価格水準は、評価対象の土地価格にある程度は影響されますが、あくまで典型的な需要者の視点に立って考える必要があります。このケースでは、典型的な需要者が全国で工場・倉庫等の用地を展開しようとする事業会社のため、当該需要者は、上水道の有無は当然の前提として、特に高速道路のICへの接近性を重視して意思決定を図ると考えられます。彼らは広範囲に製品等の輸送を想定しているためです。

【設例3】タイプの異なる事業用不動産のケース

事業用不動産は、その種類によって市場の特性を正確に把握し、分析する必要があります。例えば、ホテルの場合、ビジネス用ホテルなのか、観光用ホテルなのかで価格に影響を与える要因は異なり、また、そもそも市場の動向も全く異なる場合が多いことに注意が必要です。ここでは、病院について考えてみます。 病院には大きく分けて一般病院、療養型病院、これらの混合型があり、運営者の違いにより民間なのか、公的機関なのか等に分類することができます。

不動産A

不動産Aは、民間が運営する通常の外来患者の診療及び入院患者の受け入れも行う地域の中核をなす総合病院で病床数は約120床程度、経営状態は極めて良好な状態にある。

不動産B

不動産Bは、地方自治体の運営する高齢者等の介護等を必要とする療養型病院で、病床数は約120床程度、経営状態はあまり芳しくなく、厳しい状態にある。

【ポイント】

病院は、売上(医業収益)から経費(=医業費用)を控除して利益を生み出しているという点においては事業用不動産の一種といえますが、医療法によって株式会社の参入が認められていない等様々な制約があり、公的サービスを提供する側面を有するため、公共財的性格を同時に包含した不動産になります。病院は、法律的に利益追求を第一としないことを建前としているため、上記のような病院の種類及び運営者の区分等を把握し、鑑定評価を行うことが重要です。

一般に事業用不動産は収益性を重視して鑑定評価額を決定することが多くありますが、病院の場合、公共財的性格を有する不動産であることを前提として、安易に収益性を重視して鑑定評価を行うべきではなく、事業用不動産の特性を適切に把握する必要があるといえます。

まとめ

今回は、鑑定評価のプロセスの内、市場分析、特に定性的な分析について触れてきました。この定性的な市場分析は、鑑定評価の方向性及び鑑定評価額の妥当性を検証する上で非常に重要な手順の一つになります。市場分析は、一朝一夕になし得るものではなく、対象不動産の地域、種類や性格等の違いによって平素から行い、分析した結果を蓄積し、専門的技術を常に更新し続ける必要があります。こうした専門的知識を有する不動産の適正な価値判断を行う場合にこそ不動産鑑定士の存在意義があるのではないでしょうか?

次回は、今までの掲載記事の集大成ともいえる継続地代の鑑定評価について触れていきます。

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